オラ・アミーゴ。
(↑ツアーのトレーラー。この最初の静止画に映ってるルービックキューブみたいなのが、舞台装置の仕舞い方の図。複数の立方体が、貨物航空機の規定サイズいっぱいにパズルのように詰め込まれてる。)
何かの拍子にある音楽が耳について離れず、頭でずっと鳴っているということありますよね? 10月26日にNYはブルックリンのメイソニック寺院でアモン・トビンを見たあとぴったり1週間ずっと、このライブで演奏された曲がかわるがわる、私の脳内でシャッフルされっぱなしになっていた。その度に記憶が呼び戻され、しばし思い出してから我に返っては「ワオ。すごいものを見た。」と感嘆してた。
すごかった。Amon Tobin、ISAM Tour。
ヨーロッパ、アメリカで、フェス公演以外が全てソールドアウト。私が行ったブルックリンも、追加公演2回含め全3公演売り切れ。
(↑ISAM はアイサムと読みます。)
(↑会場 Brooklyn Masonic Temple の外観)
10月26日、水曜日。19時開場、20時開演。会場は寺院で、クラブっぽい雰囲気は全くない。キャパ1000人前後。(ツアー中で小さい方の会場。シカゴは5000とか。)バーも折りたたみのテーブルで、プロのバーテンっぽくないフツーの若者がクーラーボックスから缶ビール(何故かアサヒ・スーパードライのみ)などを出して売ってる。客は先に別のテーブルでチケットを買って交換する学園祭的スタイルで手作り感が落ち着く。開場を並んで待って入った客はほとんど皆ステージを一望できる二階の席を確保し、ゆったり待っている。
私は踊る気満々でフロア最前列で待つ。木の床だ。
入場から2時間の9時半頃、Ninja Tuneの後輩女子シンガーEmikaのオープナーでじらされ切ったころにやっと会場は満員。カーテンが開き舞台装置がお披露目されるとすぐアモン登場。最初の一音からことごとく立ちつくした。しばし目が点、耳がダンボ。そして数秒後、我に返った。「うっはー!」と笑うしかなかった。なにこれ??
(↑End Song from Melissa Phillips on Vimeo).
このビデオは音質はひどいけど、この映像が目の前いっぱいに広がってて後ろには1000人の観客、爆音でアモン王子がプレイしてるところを想像してみて欲しい。鳥肌。
ステージ上に立方体が積み上げてある。私の目の前にはちょっと大きめの立方体、その中にアモン・トビンが入っていて、時々ライトが付いては彼がビートに合わせて体を動かしながら演奏してるのを映しだす。しかし全体に目をやると、静止してるはずの立方体が音に合わせて動いてる(踊っている)ようにしか見えないのだ。(え、私しらふだよね??)
唖然と立ちつくしてはたまに歓声をあげる。まに見回しても周りの客もみな同じようにただただ間抜け面してたと思う。始まって40分くらいか、やっと、ダンス・ミュージックと言えるようなビートを刻み始めた。キタキター!と思う間もなくビジュアルもさらにパワーアップして頭くらくら体びりびり。これはヤバい。(Youtubeに投稿されたビデオのコメントで「アシッド食ってなくてマジ良かった!ww」ってのがあった。)ネクストレベル過ぎであご外れるわ。
音とビジュアルのシンクロ率が異常。
(↑Amon Tobin from Ciara Phelan on Vimeo).
目の錯覚具合も異常。
これ目ですか耳ですか。私の感覚、混乱しております。紙吹雪、2回のアンコール、鳴りやまない歓声。タバコを手にもって何度もおじぎするステージ上のアモン・トビン。泣いてたように見えた。たぶん泣いてた。納得。手で胸を押さえて、頭を下げていた。ひとり、ステージ上で。
なんとかホテルに帰ったら、紙吹雪が靴や服の中に入ってた。後で知ったけど、どっかのクラブでアフターパーティがあって、アモン・トビンがDJセットやってたらしい。そんなことも知らぬまま私は幸せに燃え尽きてました。深夜前に。
何だか分からないけどすごく、美しいものを見た。2ヶ月経つけどやはり、それしか言えない。それ以上言ったら無粋。でも。LEDの洪水が、ヘビーな機械音と壊れるぎりぎりのビートが、なぜこんなにも体に染みていくのか。飛び立つ航空機、リアルタイムで立方体に投影されるアモン、意志を持った群れのように動く立方体。なぜ心の真ん中を優しく撫でられたような震えを感じるのか。外は激しいビート、中は潮が引いていくように静か。この人はどこかにたどり着こうとしている。いや、どこかに戻ろうとしている。暴力的なまでにもがいているようで、芯は悠然と。彼の中だけにあるどこか美しい場所に向かう旅に、確かに私は同行していた。
今のところ予定されてる最後で唯一のISAM Tour公演が、12/31サンフランシスコの年越しイベント。お近くの方はぜひ。特にメディア・アートクラスタの皆さん、ライブ音楽好きの皆さん。間違いなく、ひとり×ライブ音楽の、現在のひとつの頂点にいる。これが10年20年後に美術館に置かれるのを待たずに、会場に見に行くべきと思う。先日ぶらり入った美術館で20年前のナム・ジュン・パイクの作品が静かに置かれているのを見て、それだけは年を超える前に言っておこうと思いました。生に飛び込め。切符を受け取れ。ハッピー・ニュー・イヤー!
技術的なところをもうちょっと知りたい人は、この制作裏舞台のビデオを。
ISAMの音の作り方はこちら。