Wednesday, October 6, 2010

Social Networkでちょっと考えた大衆文化の質感

飛んだりはねたり遊んでばかりいた夏も終わり、そろそろ冷酷な冬を走り抜ける準備を始めよう。苦境に挑む精神のしなやかさは日々の積み重ね。ってことで何か書こう。

最近見た、Social Networkって日本では来年公開の映画について。予備知識なしで見たい人はここから先は読まないで。(ってせっかく久々の投稿なのにこれじゃ誰も読めないし映画公開された頃にはすっかり過去にうずもれてるじゃんね。まーいいや。)



さてSocial Networkという映画。ご覧の通りトレーラー、音楽がRadioheadのCreepの聖歌隊風カバー。瞬時に「Gleeかよっ!」ってうんざり。でもフィンチャー監督作と聞いた途端に手のひら返しましたよ。フィンチャー作品は全部見てるし、特にファイトクラブは何度見たことか。でも正直2000年以降の作品はぱっとしない。ベンジャミン・バトンなんて特に。でも今作Social Networkを見てやっと、膝を叩いて、「待っていたよ!」と思った。と同時に、なんで面白いのか良く分からない感覚も。

ストーリーがこの先どうなるのか、っていうワクワク感を最初から放棄してるような、物語の語り部として安心して身を任せられないような印象がずっとつきまとって。でもずっと見ていたい気持ち良さがある。ファイトクラブも、前半だけ繰り返し見た。後半になってストーリーを語り始めると、つじつまを合わせるための説明が始まるとつまらなくなってくる。フィンチャー映画に説明は求めてないんだなと思った。語り口のスタイリッシュさがとにかく気持ち良い。例えばタルコフスキーのノスタルジアがなぜ美しいかっていうと言葉で説明できるストーリーが特にないから。だから映画的にただひたすら美しい。

どうでもいい話、ってとこがこの映画の成功の原因じゃないかね。

ベンジャミン・バトンも、ゾディアックも、生死とかいかに生きるかとかに触れている。パニックルームだって命をかけて戦ってるし。ちょっと待てよ、映画だからなんか大げさなテーマが必要な気がしたけど、あれ、必ずしも要らなくね、そういうの? って気づいたのかもフィンチャー。俺、カメラとか特殊効果とか萌えじゃん元々、とか。誰だって何だって好きな方向に全神経かたむけて振り切れば、そこに残るのは何か美しいものなんだと思う。テーマが深いからってクリストファー・ノーランとかをライバル視する必要はないし、そういうの後でやりたくなったらやればいいし、今やりたいこと全部やったらいいんだよ。きっと。

別に意味はない。気持ち良いだけ。映像の質感を組み合わせて、その気持ち良さを重ねていく。そのためにストーリーも使う。語るために照明を構図を工夫するんじゃなくて。これ見よがしに技法を披露したりもしない。自己満足こそが完成だから。遠目で見るとゴージャスな布、近くで見ると色んな素材と色の糸が織り込まれている。たぶん撮影の仕方とか、処理方法の違いで、ひと昔だったらひとつの映画では1つに統一されてた画面の質感みたいなものが、くるくると変わっていく。小さい出来事の断片を前後入れ替え重ねていって作品後半のボートレースのシーンでちょっと華麗に飛ぶ。ポップソングでいうとブリッジみたいな流れがある。ボートシーンがごっそり無くても物語は完結する。でもただの映画だし。別に人生の教訓も示さないし、泣けてすっきりとか無い。別に。そんな人生の質感、私たちには普通じゃないでしょうか。

そんなことを、車を運転しながら考えた。ラジオでMGMTのKidsが流れていた。

もう言いたいことは無いし、でも生きてれば辛いことも楽しいことも起きるし、嬉しい悲しいその一瞬を、生まれたそばから逃げていくその感情を、その質感を再現したい。しばらくラジオで流れてくるポップソングが、起承転結のあるラブソングばかりだったの、クレイジーでしょう。

MGMTとかGrizzly Bearとか、fireflyって曲がスマッシュヒットしたOwl Cityとか、音の「質感」ありきな美は細部に宿る系ポップバンドが最近流行っている気がする。音響系ポップとか呼ばれてるのかな。(全然知らない。)音の処理にこだわりがあって、トラック数が多くて、楽器いくつかとボーカルのバランスを調整するだけのエンジニアリングとはそもそもの方向性が違うかのような音の重なり方。そういうのが今新しいわけじゃないけど、ラジオでしょっちゅう流れたりTVCMに使われたりとかいう大衆への受け入れられ方はちょっと今っぽいかもしれない。

西洋人の西洋疲れというか、The medium is the messageっていうか。

Social Networkもそんなのに共通する、いわゆる時代の空気ってやつを捉えてる気がしました。うまく説明できないけど、面白かったよ。(映画好きとネットベンチャー好き以外にはあんまり強くおすすめしたい感じではないけど。)

MGMT - Kids