Tuesday, May 13, 2014

フー・ファイターズ@9:30 club (2014/5/5)と音響

(上の写真はワシントンポストのレポート記事から拝借)

先週5/5月曜日の夜に、DCの老舗ライブハウス9:30クラブFoo Fightersのシークレット・ショーを見た。シークレットとはいえフライヤーにはスペシャルゲストと書いた横にFoo Fightersのアルバムジャケットと同じ絵があったりとヒントは散りばめられていた。私は内容を知らずに友達に誘われ行ってみたのだったが、結局これはロック界きってのナイスガイ、デイブ・グロールによる地元への恩返しの夜だった。泣けた。

そもそも、35年もの歴史を誇るワシントンDCのファンク・バンドTrouble Funkのフロントマンであるビッグ・トニー氏の誕生日パーティをデイブ・グロールが開くという趣旨で、決定している出演バンドはそのTrouble FunkとThe Don't Need It's、そして謎のスペシャルゲストの3組という毛色の変わったイベントだった。34年もの歴史を誇り当初はレーベルSugar Hill Recordからアルバムを出していたTrouble FunkはGo-goといういわばDCならではの音楽ジャンルで、ファンク、ブルース、ヒップホップが混ざって80年代的なサンプリングと観客への呼びかけが盛り上がるストリート・ノリ、14人編成の大所帯。The Don't Need It'sはデイブ・グロール(ドラム)、Pete Stahl(ボーカル。デイブがニルバーナ以前にDCでやってたバンドScreamの仲間)、そしてDCの元祖ハードコア・パンク・バンドBad BrainsのDr. KnowとDarryl Jeniferがそれぞれギターとベースで参加するおそらく単発の企画バンド。

1枚37ドルのチケットはひとり2枚まで、会場である9:30クラブの窓口のみ、いまどきオンライン販売なし、購入時に提示したIDを持参しないと入場できないという異例。つまりDC地元に住んでてかつ、今まで出てきた名前にピンと来てすぐ動いた人しか行けないイベントだった。何しろFoo Fightersは2万人規模のアリーナでツアーをするバンド、出演の噂がたっただけでキャパ1100人のこの箱はオンライン販売ですぐ売り切れてただろう。

とはいえ観客の中には色んな人がいたと思うのだが、思いのほかFooファンは少なかったようで、2、3曲終わってからかな、ステージでMCするデイブ、「この中にFoo Fighters見たことあるひとー?」って。手をあげる人ちらほら、5%くらいかな。そしたらデイブ「まじかよ、おまえら。14年もやってるってのによ」って会場大ウケ。DCのパンク好きは多分Foo Fighters聞かないし、Go-goファンもそう。シーン情勢の話しとか、ファンクとパンクとか、いろいろ面白いイベントだったわけなんだけど、DCという街の音楽シーンを斜めにつなげるのがロック界きってのナイスガイ、デイブ・グロールの腕力だったのね、という。映像作家として自身のドキュメンタリーでデイブ・グロールのインタビューもしたRobin BellはDC郊外のバージニア州生まれ、Murder Capital*と呼ばれたほどの治安の悪かったワシントンDCで育った。この日は近所に住む弟と来ていた。耳に心地よくないのでパンク音楽は苦手であると言う私に、パンク音楽を「folk music(土着の民謡)だからねぇ、痛みは避けられない」という。

と、ここまで長い前置きで、言いたかったのは音響のこと。音響のことを話すのは専門知識もないし難しいし、音なんて浴びないと分からない、っていうこともあるんだけど。しかし。あーパンクが分かった!って思っちゃったのね。今まで苦手だと思っていたハードなパンクが。8時に会場着いたときに、デイブ、汗だくでドラムたたいてた。オープナーのThe Don't Need It'sのドラマーとして。すごく力強くタイトなドラムだった。なんというか、抱かれたいというか。木から降りられなくなったときに抱っこして下ろして欲しいというか。でも音響的にはしばらく聞いてると音の角が耳に刺さるというか、耳栓をすれば全体が曇るし、外せば耳が痛いし、という状態。ステージで濡れた髪を振り乱して全力のデイブとその仲間達には悪いのだが、うるさい音楽は分からん、と思っていたら終了。休憩をおきTrouble Funkが登場した。楽しくノリノリなのだが、これもまたホーンが耳に刺さる。しばしバーで休憩する。

そして、次のバンドのサウンド・チェックが始まる。ステージ脇に合わせて10個はギターが並んでいる。なんだろう、ギターの弦を1本はじくと、色んなケーブルと機械を通して拡大されて、スピーカーから出てくる、その音が澄んでいる。響き渡った瞬間、雲が晴れたような気持ちよさが広がる。だいたいの人はおしゃべりしたりiPhoneいじったりして音に注意を向けてはいないんだけど、支配する空気は違っている。期待が高まる。そしてギターをかついだデイブが登場、耳に覚えのあるリフを小さく鳴らしながら話し始める。ワシントンDC郊外バージニア州スプリングフィールドで育ったこと、ニルバーナ加入よりずっと前のバンドでTrouble Funkの前座をつとめたこと、9:30クラブでたくさんのショーを見て来たこと。観客喝采。そのまま弾き語りの1曲目はTimes like this、後半からドラムとベースが入り、ぎゅっと音圧が高まる。気持ちいい。思い切り大きい音なのに、不快に感じる箇所が全くなく、立体的で深い。それからずっとデイブはギターとボーカル。

こんな気持ちの良い音響で思い出すのは、2012年2月ニューヨークのクイーンズにある科学博物館BjorkがやったBiophiliaツアーのショー。Great Hallという、平面部分が全くない波打つコンクリートのフレームに5000枚のガラスがはめ込まれた張り30メートル超の青いに囲まれたステージだった。キャパは300人程度、かなり自由に歩き回れて、疲れたら座れて、一番ステージから遠くにいても10メートルくらい。レジデンシーとしての5回の公演は発売と同時に即売り切れ。特別なショーだった。それはそれは、すごい音だった。たぶん、普通のコンサートの音響と考え方が違う。そのホール固有の環境に合わせて、科学実験のように基礎から構築したんだと思う。はるか上にある天井が開いて光とともに宇宙船に吸い込まれそうな気がした。底抜けの恐ろしさみたいなものが感じられる解像度だった。これは絶対に、ビデオじゃ伝わらない。少なくともiPhoneで撮ってyoutubeに上げたものでは無理。削ぎ落とされるビットに宿る800万の神が合唱していた、bjorkの方を向いて。

さて9:30クラブは大盛り上がり。中盤のMonkey Wrenchではデイブがステージ横にあるバーに立ってギターを演奏していた。そして気持ち良く安心して包み込まれるような音の中ではなんと私も、ハードなロックも消化できるのであった。屈強な野郎どもが全員が全力ででかい音を出している、汗だくで太鼓をたたく、シャウトする、完璧なタイミングでメリハリを描き、観客と一体となる。文句なしに、体が、気持ちよかった。渦巻くエネルギーが、ぎりぎりのところで緻密にコントロールされていた。後半、This is a callでは気づけば歌いながら周りの皆さんと拳を上げていた私。子供のようにはしゃいでいた。安心して身を任せられる音響の中で。アンコール4曲を含む19曲のセットが終わったのは12時半過ぎ。帰ってきたヒーローの正しくフレンドリーなパンク・ショーだった。

BjorkとFoo Fightersのoutstandingな音響に共通するのは、どちらも普段、最大規模のフェスティバルでヘッドライナーをつとめるような大物で、小さな箱でやるのは珍しいということ。この翌日、ミュージシャンとして数多くのバンドツアーに参加してきた我がルームメイトのJerry BusherにFoo FightersのPAの良さを話していたら、「そりゃ普段スタジアム満杯の客を満足させてるバンドだから、小さくて音質の良い9:30クラブのような箱での調整なら理想に近い音が出せるだろう」とのことだった。たぶんミュージシャンにとっても、全ての観客がいい音で、息づかいの聞こえる解像度で演奏できるということは得るものが大きいのであろう。

私はショーに行く時、会場でも結構選ぶところがある。そして同じ箱でもミュージシャンや、PA設備と技術者によって音はかなり変わる。ひとつ言えるのは、ミュージシャンが普段やる会場の規模よりかなり小さいところでやるショーは、音質が良いことが期待できる場合が多いということ。そして音響が違えば、音楽ジャンルそのものの印象も大きく変わるということ。The medium is the message。Foo Fightersのコンサートにまた行くかと言われると微妙なのだが、彼らはハードなパンクの、健全でタフな精神は健全でタフな身体に宿ってステージで爆発する、その美しさを教えてくれた。私が住むこの若くワイルドな街の民謡が初めてちょっと理解できた。とても良いパーティだった。

*最近はデトロイトなど過疎化した工業都市にトップの座を譲ってはいるけど2000年頃には殺人、窃盗など人口あたりの発生数が全米1位だったようです。最近でもまだまだほとんどの犯罪で発生率が日本よりかなーり高い。日本大使館が作ったグラフが分かりやすい。アメリカ合衆国の犯罪と治安(wiki)はもっと詳しい。

おまけの映像集

ところで今回ロッキンオンの関連記事を読んだんですが、最新号、私の見間違いか誤植だろうと思いました。2014年じゃなくてこれ1996年の表紙だよね? オアシスとニルバーナって。90年代ロック専門誌っていうニッチなポジションが確立されたんですねロッキンオンは。参考になる。96年頃は実は私も熱心にこの雑誌読んでましたし、実はFoo fightersのファーストアルバムはけっこうよく聴いてました。This is a call最初のシングルはイントロのコーラスが素敵です。怒りと絶望を乗り越えた先の突き抜けたポップ。