Saturday, January 30, 2010

サリンジャーと読書の思い出

サリンジャーが亡くなった。"Catcher in the Rye"は、私が最初に英語で読んだ本だ。茨城の高校に通っていた頃のこと。分からない単語も表現も多かったけど、基本的に同い年くらいの主人公の話し言葉なこともあり意外にドライブ感を失わないまま最後まで耳を傾けることができた。それと直前に日本語訳で読んだ記憶もまだ鮮やかだったので、既にある「ライ麦畑でつかまえて」の存在感に英語のレイヤーを上からふわっと重ねて、文体と流れを楽しむことが出来たんだと思う。

この本はたしか、渋谷のタワーレコードに入っているタワーブックスで買ったはずだ。96〜97年くらい。当時、(研究書とかじゃなくて)本屋で普通に売ってる範囲内では、洋書を輸入しているのはほとんどが洋販という会社で、その次にタワーブックスが独自で輸入しているのが二番手くらいだったはず。(高校生の私が観察した結果のしかもうろ覚えなので違うかもしれないが、三省堂、丸善、紀伊国屋など大手書店の洋書はほとんど洋販の仕入れだったと記憶している。)で、全体的に洋販よりタワーのが安かった。


当時もamazonはあったけど日本ではサービス開始してなかったので、1冊買うくらいではアメリカからの送料で高くなってしまうのであった。そして高校生の私にはクレジットカードで支払いとか、カスタマーサービスも英語とか、ハードルが高かったはず。しかし、amazonの各機能には感嘆していた。当時からレビュー機能もあったし、おすすめ機能もあった。うわあ読者仲間がいるんだ、世界には!というピュアな驚き。完全なる手探り+アルファな本選びの可能性。

そんな高校生の私は大学受験に向けての勉強をする気が起こらず、ごく自然な流れで浪人生というものになった。週に2コマだけ予備校の授業を取り(英語と小論文)、そのうち1つ(英語)はすぐに行かなくなり、神保町のレストランでウェイトレスをしつつ給料日は古本をリュックにつめて帰ったものだ。そして、ほどなくしてタワーブックスのバイト募集を見つける。パートタイムじゃなくてフルタイムのアルバイト。どの大学に何しに行きたいかもさっぱり分からなかったので、とりあえずフリーターして考えたらいいじゃないと応募した。

志望動機は履歴書用紙では足りないので別紙に書いた。

タワーブックスは他の書店より安く個性もあるバランス良い品揃えで実店舗としては素晴らしいが、今後の競争相手はオンライン書店だと思う。何を買ったら良いかの判断材料として他のユーザーのレビュー機能などがある。そこで実店舗の本屋の存在意義は、流れている音楽など含めてそこに行きたくなるような楽しい空間にある。そこに行かないと読めない店員のコメントとか、品揃え、空間作りこそ今後の鍵。少なからず貢献できると思う。

そんなようなことを、A4用紙1枚にまとめて印刷した。たぶん、「御社」とかいう言葉も知らなくて「タワーブックスは」とか書いてたんじゃないかなあ。覚えてないけど。で、面接にいったらその紙をみた担当者は「すごいですね」って言った。褒めるというより戸惑ってるような? そして面接の内容も通達内容も覚えてないけど、とにかく採用されなかった。

で、そのままウェイトレスのバイト先がインドカレー屋からタイ料理屋に変わったりしつつ次の年、ほとんど勉強はせずに英語と小論文だけで大学に入って今にいたる。

あれから約14年、アメリカのタワーレコード本社は破産(再建したが実店舗はない)、洋販も破産し傘下の青山ブックセンターはブックオフ傘下に、読書には「本」すら要らなくなってしまった。先週、Barns & Nobleが販売している電子ブックリーダー"Nook"を店舗で見かけたので操作してみた。ディスプレイは見やすかった。小説に没頭していたら、紙でもこれ(Nook)でも変わらず読書は出来るなと思った。Kindleも多分同じくらいかそれ以上に読みやすいだろうし、iPadはアップルファンに向けた電子ブックリーダーだろう。個人的には、青山ブックセンターがブックオフ傘下ということのが、読書から紙が消えることよりもシュールに感じる。

モノに溢れた東京で溺れそうになりながら生活していると忘れがちだが、読みたい本が読めない人は今でも多いはずなのだ。サリンジャーはまだキンドル版が出てないみたいだけど、他の作家を見てみると著作権の切れたものは無料のも多い。有名な古典文学だとエドガー・アラン・ポー、ウォルト・ウィットマン、オスカー・ワイルドなんかも無料作品がある。99セントの作品も多い。茨城の高校に通いつつ、渋谷まで最安値の洋書を買いに行っていた高校生のことを思うと、なんと素晴らしい状況ではないか。作家もあの世で喜んでいるに違いない。サリンジャーの作品は、2060年にパブリックドメインになるのか・・・。

そういえば、アメリカで図書館に行ったことがないので、行ってみようと思う。言葉の印刷された本に囲まれる体験は近い将来、珍しくて贅沢な体験になるのだろうか? 古い紙の匂いは?

Wednesday, January 27, 2010

どの魚を食べようか

よく行くWhole Foods Marketというスーパーマーケットに、客からのコメントや質問に店員が答えた用紙が張ってある掲示板を見つけた。眺めていたら面白いやりとりが。


オレンジ・ラフィー(という魚)を、魚コーナーのセレクションに加えてくれませんか? という客のリクエストに、店員がこう答えている(要約)。「オレンジ・ラフィーおいしいですよね。でも成長の遅い魚で、漁獲し過ぎで数が減っているんです。それからこの魚の一般的な捕獲方法は、海底深くでトローリングするので海底の環境をかなり破壊してしまうんです。レッド・スナッパーかグルーパー(どちらも魚)を試してみて下さい!」(注:オレンジ・ラフィーはタイ系の魚らしい。見たことはあるが食べたことがない。)

魚に限らずこの店は、一般的なアメリカのスーパーに比べて品質基準が高い。だから美味しいものが多いので通っているだが、環境への配慮がこれほど店舗の店員まで行き届いているのかと感心した。

↓かなりでかい魚も。



で、そのあとちょうどこの店で買った雑誌を眺めていた。「Eating Well」という、「おいしい+健康」に関する雑誌。この「If you love This Fish, Help Save it!」(その魚が好きなら、守りましょう!)というサステナブル(sustainable)なシーフードの扱いに関する小さな記事。



この魚をもったおじさんは、アルトン・ブラウン(Alton Brown)。ひとことで肩書きを考えてみると、「科学ギーク系料理研究映像作家」。私もファンです。今度改めて紹介したいけど、彼は10年くらい続く自分の番組も持ってる他、アメリカ版料理の鉄人の解説者もやってる。で、この人をはじめとした有名シェフたちが、アトランティック・サーモン、輸入エビ、チリアン・シー・バス、あんこうなどを始めとした、種として数が減っている魚・シーフードを食べることも料理することも止めたんだそうだ。他にもこの不買運動(不食運動?)には人気の料理雑誌などが参加している。それから、あのWal-Martはなんと2011年から、Marine Stewardship Counsilという認証機関が認める野生の魚しか仕入れないと決めたんだそうだ。

1990年にも同じような運動が大西洋のカジキマグロ(Atlantic swordfish)に対して起こって、近年ではカジキマグロの数は増えたらしい。最近ではモナコが、クロマグロ(bluefin tuna)の捕獲を国際的に禁止しようと提案しているとのこと。

環境、サステナビリティー的にどの魚が危なくて、どの魚が安全なのかということについてはseafoodwatch.comのリストを参照できるとのこと。(まだ確認してないのですが。)


海洋汚染や乱獲の問題は耳にしていたけど、実際にそれに対して何をするべきか、何ができるのか考えてみたことはなかった。(気にはなっていていつか勉強しようと思っていたんだけど。)魚大好き島国日本人としてはちょっと恥ずかしい。まぁでもずーっとサステナブルに食べてきた海の民族だからしょうがない。認証機関や捕獲のルールが作られていく時期なんだろう。ウォッチ開始します。

Sunday, January 24, 2010

読書:Michael Pollan新作「Food Rules an eater's manual」

私も東京で会社員をしてたから、食事をコンビニでまかなったことは多々ある。現実的な選択肢として、今この瞬間も日本でたくさんの人がコンビニ弁当をお腹に収めていることだろう。でもいつも私はコンビニ弁当を、緊急時用とみなしてきた。安くて簡単に買えて簡単に食べられるコンビニの食べ物は、毎日食べ続けてはいけないものと強く認識してはいた。

知らない人が私を知らずに作った、最低限食べられる味付けの、明らかに栄養が偏った食事を本当の食事と言っていいのだろうか。不審者を玄関に上げないのに、不安のぬぐえない物を体内に入れることには慣れてしまう、それは囚人の生活じゃないか。

何に囚われているのかと言えば、それは資本主義だろう。私にとってウマイ飯は、なかなか資本主義と相性が悪い。いや正しく希望を持って言おう。今までの資本主義は、本当の美味しさを犠牲にして発展してきた。

「昔のトマトはおいしかった」と食卓のトマトサラダを食べながら母が言っていたのをよく覚えている。私は母の作るシンプルなトマトサラダが好きだったから、「つまりこのトマトはあんまりおいしくないのか?」と不思議に思った。母は、昔のトマトは野性味があって力強かったという。「トマトの味がした」と言った。じゃあ、私はトマトの味を知らない。母の言い方には危機感が感じられず、それがすごく不安を煽ったものだ。「もぎたてのきゅうりも、今思えばおいしかったな。」呑気でかわいいみっちゃんよ。

それってひどくない? おいしいトマトを世界から追放した代わりに、私の世代が得たものは色々あるんだろう。でも親以上の世代が私に、おいしいトマトを残してくれなかったことは変わらない。そこは反省するとこじゃないの? 子供だから分からなかったけど今なら分かる。若き宙音よ、そのもやもやした感情は、怒りといって、人類のパワフルなエネルギー源だ。

冬のごぼうの香り、生の大根の水分が体に染み込む感じ。茹でたてのそら豆が上げる湯気、春の山菜の新芽の複雑な緑色、秋の秋刀魚の脂が焼ける音。自然の鮮やかさを教えてくれる食べ物、それが私の好きな味だ。これは3、4年前に自分で料理をし始めて、分かったことだ。

だからといって何でも手作りは、私にも無理。外食もするし、料理の手間をお金で買うこともある。釣りや狩りをし畑を耕して生活をすればそれは美味しい生活だろうが、友達付き合いもしたいし俗世間でやることがまだまだある。



そんな私は、アメリカで昨年末に出版されたマイケル・ポーランの新作「Food Rules An Eater's Manual」を支持する。この本の概要はこうだ;

現代人は、溢れる製品と情報の中で、何を食べたら良いのか混乱状態にある。しかし栄養学というのは歴史が浅く、まだまだ発展途上。そして栄養学とフード・サイエンスに基づいて食品産業が作り上げたアメリカの食生活(ウェスタン・ダイエット:複雑に加工された食品と肉の消費が多い)では、肥満、心臓病、糖尿病や癌などいわゆる現代病が増えるということは科学者も認めてる。その一方で伝統的な食生活を送る人々にはそれらの現代病は少ない。この栄養素がこの病気を作る、と一つの「原因物質」を突き止めようとするその食生活そのものが問題なのだ。調査の後著者が導いた結論は短く;「Eat food. Not too much. Mostly plants.(食べ物を食べよ。食べ過ぎず。主に植物を。)」さらに、民俗学者、人類学者、医者、看護婦、栄養学者、栄養士、そしてたくさんの母親と祖母、曾祖母に話を聞き、そしてインターネット上で、親や他人から聞いた食べ物に関するルールで役に立ったものを一般から集めた。それを精査し、アメリカの現状において何をどう食べたらいいかということに関する64のルールを3つのセクション「Eat food」「Not too much」「Mostly plants」にそれぞれ分けまとめたのが本書。

例えば「Eat food」セクションのルール7は「小学校三年生が発音できない(読めない)原材料が含まれる食品は避けるべし。」それは「食べ物」とはみなさず、食べ物っぽい食用物質(edible foodlike substances)と呼ぶ。こんな感じで、簡単な説明とともに展開する。薄い本なのでネイティブなら1時間程度で読めるはずだ。そして安い。(定価は11ドルだが私はamazonで5ドルで買った。)

←イラストも多い。

全体的に賛成できる内容だが中にはもちろん、全面的に賛成できないルールもあるし、根拠に乏しいと感じるルールもある。でも、膝を打って「そうそう!」と思う文も多く、なにしろこういう本がアメリカで出版されるというのは喜ばしい。食との付き合いに違和感と不満を感じつつ、改善方法が分からない人たちはたくさんいるはずで、その人たちにとっては良いきっかけになるだろう。買ってさらっと読んで、友達にさりげなくあげてもいい。

日本とアメリカは事情が違うので全く同じようにあてはめることは出来ないが、グローバルな現代社会では他人事なんて存在しないだろう。私が日本で3、4年前に自分の食生活を見直し始めたとき、参考に出来る指南書の類いは多くなかったことを考えると、冷静に落としどころを定めて書かれたこういう本がアメリカでドロップされたことには拍手を送りたい。そして、アメリカの不健康な食事情は日本以上に改善の余地があることは明らかだが、変わり始めたら大胆な動きも可能なのがアメリカだ。今後に注目。

ちなみにそんな私の食生活は、その全てを簡潔に記録するブログを最近始めたので、気になる人はどうぞ覗いて下さい。味気も色気もないですが。
http://sorafay.wordpress.com/


Saturday, January 23, 2010

かわいい子には引っ越しさせよ

タイトル通りそのまんま。

29歳にして初めての本格的な引っ越しをしたわけなんだが、思った以上に新鮮な体験であった。さすが東京からワシントンDCは世界のちょうど反対側くらい遠いだけあって、文化に関するいろいろな謎が一気にとけた。哲学的な問いにもヒントがたくさん得られた。

かわいい子には旅をさせよ、と言うが、今どきもう旅は有効じゃない気がする。いや、旅が日常過ぎるから取り立てて言うこともないといったところか。

もちろん私が子供のころにわりと色んな場所に旅行で連れて行ってもらったのはラッキーだと思う。中学卒業までに、アメリカ各都市、ハワイ、バハマ、シンガポール、オーストラリアに行ったし、ニューヨークには小中高とそれぞれ1度ずつ旅行した。インターネット以前の海外旅行が子供に与えた影響はかなり大きいはずだ。毎回すごく楽しみだったし、旅先では小さなことにいちいち感動した。

子供は旅に連れて行った方がいいし、それから、引っ越しもさせた方が良い。中学や高校時代に1年交換留学をしたっていう友達はちらほらいるけど、良い親を持ちましたね。私は小学校くらいの時に外国に憧れて、「父が転勤で海外に引っ越し」とか羨ましい話だった。我が家は父親が自営の音響屋だったから海外転勤は無いし、オーストラリアでラーメン屋を開くとか一念発起しないかなぁって思ってた。でもやっぱり東京の、母が相続した土地に住み続けた。

外国に引っ越すのは大変だけど、カルチャーショックのたびに身軽になってる気がする。積もった汚れは洗剤で落ちるまで気づかないように、長く生きれば知らぬ間に要らぬ振る舞いまで身につけているものだ。1点から世界を見るより、2点から。できれば3点で面が確立する気がするが、それはまあ、今は置いておこう。そらねは引っ越しで立体メガネを得た! という感じ。

だが、それとて誰にでもあてはめられるものではないのかもしれない。私の父は、勉強の成績とか、どこの学校に行くのかについて、全く興味を持たなかった。旅行に連れて行ってくれたり、ミックステープを作ってくれたりしたけど、何かを指示された覚えはそういえば、無い。人並みに「良い大学に行けるように勉強した方が良い」と言い続けた母と、いわゆる親らしい振る舞いをしなかった父との間で、バランスよく育った。と、長いこと思っていた。父が亡くなってしばらくして、弟の全く違う意見を聞くまでは。彼は、父が進路に無関心で頼りなく、寂しかったという。これには驚いた。

子育てにはきっと、黄金のルールは無いんだろうな。私の両親は、子供は預かりもので、たまたま我が家にやってきて、大人になるまで育てる責任があるが、決して自分たちの所有物ではない、という方針だったらしい。私はこの考え方が好きだ。お互いを尊重する関係だったから、混乱した姿を大げさに隠す必要もない。それを受け止められるかどうかは、また別の話なのだ。何事も、良い面と悪い面が1セットだ。

今日は父の誕生日であった。生きていれば、58歳か。宙音は元気にしてますよ。



*小学生の頃に父がくれたミックステープ(カセット)には、オーリアンズ、キャット・スティーブンス、ボズ・スキャッグスなんかが入っていた。

Saturday, January 16, 2010

Michael Pollan on Daily Show with Jon Stewart!

ジャーナリストのマイケル・ポーランをご存知だろうか? 食べ物に関する本を2、3冊書いてて、私は去年あたりChika Watanabeさんがブログに紹介していた「Omnivore's dilemma」という本で知った。→

この本は買って前書きだけ読んで、すっかり読み終わった気になって良い本だと思っていた(そういうことはよくある)のだが、ちょうど最近見たドキュメンタリー映画「Food, Inc.」にもポーラン氏が出演していて、あの本そういえば読みかけだなぁと思い出した。

日本でも翻訳が出たみたいです。「雑食動物のジレンマ」という色気のないしかし原題の意味に忠実なタイトルで。アマゾンのページへのリンク

そして最近、ケーブルテレビ局コメディ・セントラルで毎日夜9時からやってる番組「Daily Show」にポーラン氏がゲスト出演してインタビューを受けているのを見た。この番組はコメディなんだけど、ニュース番組の体裁を取っているのでホストもスーツを着てニュースキャスター風。今話題のニュースを辛辣で下らない笑いに包んでネタにする他、政治家やジャーナリストなどをゲストに迎えある意味で正反対の意地悪な視点から突っ込みを入れることで論点を明らかにするという人気番組。そう、ぱっと見は真面目な顔をした大胆な茶番劇なのです。

映像はこちら;
大きい画面で見たい人はここをクリックして、番組のサイトへ。
The Daily Show With Jon StewartMon - Thurs 11p / 10c
Michael Pollan
www.thedailyshow.com

Daily Show
Full Episodes
Political HumorHealth Care Crisis


内容をまとめるとこんな感じ。

食と健康に関する情報が錯綜する昨今、何をどう食べたら良いのかについて混乱している消費者に対して分かりやすいアドバイスを63の短いルールにまとめた「Food Rules」という本を出版したばかりのポーラン氏によると、正しい食品選びをひと言で表すなら「食べ物を食べなさい。『食べ物のような物質』は避けるべし。」

ホストのジョン・スチュワート氏は、タバコ会社が喫煙の健康被害に対して社会的責任を負うことになった近年の流れを例に取り質問する。タバコ会社は健康被害を知った上で販売を続けていた、という事実が明らかになったのがタバコ論争のターニングポイントだったが、食品業界でも同じことが起こるだろうか?と。

(そらね注:これは、肥満や癌などの病気や慢性病も喫煙と同じように、原因と考えられうる食品を販売した食品会社やファーストフードチェーンに責任があるのではないか、という論争が背景にある。)

ポーランは答える。タバコが人間にとって無くても良い嗜好品である一方で、食べ物は必需品。そこが大きな違い。そしてこれは仮説だが、多くの食品会社は食品科学を使い消費者を引きつける(中毒性のある)レシピをはじき出してきたが、その文書は恐らくとっくの昔に破棄されてるはずだ。(例えば大手食品クラフト社はフィリップ・モリスの傘下。同じ弁護士が関わっているだろうことから考えてもそれが当然。)現代の食品会社は高度に発達した食品科学を駆使して消費者の味覚を操作してたくさん食べさせようとしている、というと何かの陰謀っぽく聞こえるけど、それは基本的には子供に料理を食べさせようと美味しい夕食を作る母親がしてるのと同じこと。その線引きは難しい。

スチュワートは質問する。安い食べ物を作ることで、所得の少ない人の食生活を助けていることは評価にあたいするのではないか?と。安い食べ物の恩恵はもちろん貧困層のみならず我々みんなが受けている。でも、安く買える食べ物の本当のコストは、健康被害や環境破壊という形で生じている。それは結局のところ公共の医療システム/保険から払われるのだから、安い食べ物を手に入れるツケはそういう形で自分たちが負うことになる。ということはつまり、医療保険システムに関する新しい法案が通れば、保険会社も慢性病などについて方針を変えることになり、突如として保険会社が、今は無関心だが加入者の健康について興味を持ち始めるかもしれない。 ("suddenly the health insurers will have an interest in your health, which they don't have now.")ウェスタン・ダイエット(加工食品と肉を多く摂取する今のアメリカで一般的な食生活)は多くの慢性病を引き起こしてきたため、食品会社と医療業界は協力関係にあるが、大きな業界であるからゆえ、変わり始めたら大きな動きになるだろう。

でもどうやって?とスチュワート。現状ではエネルギー効率の良い食品(加工された糖類など)が推奨される結果になっているわけだが、もっと野菜や果物などの本当の食べ物を食べるように消費者と食品業界を指導することに税金を使うことも有効だろう。教育を通じて、糖分の多い炭酸飲料水の摂取を減らし摂取を増やすように呼びかけることも出来る。

それが実現されたとしたら、政府が家庭の台所までしゃしゃり出てくるなんてかつてない大規模な生活指導だよね?とスチュワート。ポーランはそれを認めるが、政府に食べ物の指導をされるのは嫌なのに、医者から「あなたはこの慢性病の薬を一生飲まないといけません」って言われると「はいそうですか」と聞いてしまうのは面白い、と指摘する。


要約するはずが割とがっつり訳してしまった。面白いので良しとしよう。いやーアメリカに住んでる健康志向の(&残念ながら消化器を中心にあまり体が頑丈ではない)私からすると、ポーラン氏がテーマにしてることは正に日々の死活問題! というわけで早速この新作「Food Rules」も買って読んでいます。(米アマゾンで5ドルでした。日アマゾンへのリンク。)私が言いたかったことが全部書いてある! 出来ることならたくさん買ってバラまきたいくらいだ。読み終わったらこれもレポートします。

Wednesday, January 13, 2010

補足:上映形式について

昨日見たAvatarですが、どうやら上映形式が複数存在するようですね。
アメリカ国内では確認できただけで、Avatar、Avatar 3D、Avatar 3D IMAX Experienceと3種類あり、私が見たのは、Avatar 3D IMAX Experience。(実は初めてのIMAXでした。)

なんだか3Dにも形式がたくさんあるようで、把握できていません。
参考:「3D映画上映方式の違い」(日本国内の話。)
http://d.hatena.ne.jp/madogiwa2/20100102

日本で見た友達には「画面が暗くて細かい所がよく分からなかったので2Dで見れば良かった」と言っている人もいます。私は上映中に首をかしげてみたり、メガネを外したりしましたが、画面の明るさはメガネの有無に影響されませんでした。

しかし、私が見たIMAXは、スクリーンが小さめでちょっとがっかりでした。(勝手に、巨大スクリーンを想像してたので。)調べてみたら、DC近辺で大きいスクリーンのIMAXシアターは、スミソニアン美術館内にいくつかあるみたいなので、そのうち張り切ってお茶とおやつを持って見てこようと思います。

ちなみに日本でのAvatarのIMAX3Dは、関東圏だと川崎のみのようです。
http://109cinemas.net/imax/movies2_avatar.html

追記:菖蒲にもあるという指摘がお友達から。↓行った人のレポート。
http://www.lennus.com/blog/archives/2010/01/imax_dubbed_avatar.html#more

で、実はAvatar本編よりワオ!だったのが上映前の予告編。特に3Dじゃないやつ。IMAXを紹介する短いCGのサンプル映像はメガネ無しなのにもの凄い奥行きがあって、幻覚みたいでした。びっくりした。Disney製作の"Earth"の続編"Oceans"なんか、ひゅーっと無意識に息を止めちゃうくらい(海中だから)のリアルさで、Disney x IMAXの本気はヤバい、と思いました。NASA協力の"Hubble"(これは3D)なんかもすごそう。私の苦手な組み合わせティム・バートン x ジョニー・デップの「不思議の国のアリス」も3DIMAX、これも大ヒットするでしょう。予告編を見ましたが3Dとの相性は良い感じでした。

少なくともアメリカに関しては、今回Avatarで3DやIMAXがブレークしたんじゃないかと思います。博物館用でも、子供騙しでもない使い方がついに始まった感じかと。大予算スペクタクル系は、今後3Dが標準になってくるののでしょうかね。映画も割と古いメディアとして、全体としては衰退してるのかもしれませんが、まだまだ一般的には力をもった娯楽だと思います。娯楽としての映画は、こういった上映技術もより追求していき、しばらくは一定のマーケットを維持するでしょうし、いわばアトラクション的にMovie 2.0とも言えるフォーマットに変貌をとげていくかもしれません。そして娯楽ではない映画は、消えないにしても小規模化していき、よりいっそうマニア(映画オタク)の特殊な世界になっていくんでしょう。(というか既にたぶん、NYや東京レベルの大都市でしか商業的に成立してない。)

個人的には、3Dが浸透していって、何かを大爆発させない映画監督でも3Dに手が届くようになって、メガネも顔の一部なくらい掛けやすくなった頃に、いろんな監督が3Dを使うようになったら面白いな、と思います。コーエン兄弟が作るコミカルな3Dドラマとか(画面隅のそこが立体かよ!みたいな)。ジャン・ピエール・ジュネが3Dで見せてくれる冒険とか。タランティーノ+3Dとかも相性良さそうだなあ。ああ想像が止まらない。テリー・ギリアムなんかも言わずもがな。

とにかく、2D映画と3D映画は別のメディアだと思った方が良いような気がします。

Tuesday, January 12, 2010

アバター見てきた(感想ひと言ネタバレなし)

Avatar、ついに見てきました。感想を甘口と辛口に分けて白いフォントで書いたので、興味ある方は該当箇所を反転させて読んで下さい。これから見る予定の方は、甘口だけ読んでもいいかもしれません。
これはrssフィードでのネタバレを避けるためのクッション→
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甘口↓
全編3Dという技術は、映画というフォーマットを大きく飛躍させたと思います。物語を見る、から物語の中にいる、という、夢に一歩近づいた感じがします。ジェームス・キャメロン監督は、今後3Dではない従来の方法で映画を作る気はしない、その必然性がない、みたいなことを言ってたらしいです。3D映画時代の幕開けを飾る1本を目撃した感じがします。ちなみに、満席の上映後、後方から拍手が聞こえてきました。

辛口↓
しかし結局は、人が作った世界と物語。ありふれた話し。ていうかジェームス・キャメロン作です。映像が2Dから3Dになったからって人間性に一次元分の深みが加わるわけじゃない。そのうえ3D(視覚側)にお金をかけるあまり、脚本は割とお安めな印象。ターミネーター2やタイタニックに比べると設定も細部もユルユルだし、失笑させられる台詞や場面も多々。音楽もアイデアに乏しくかつバリエーション少ない。で、長い。長い。上映後に拍手してた人たちには、どうかもののけ姫とポニョを見てくれと頼みたい。一緒に見た旦那とその友達は、「この映画(のストーリー)は"Dances with Smurfs"だ」と言ってました。正にこのひと言に尽きる気がします。)


← Smurf

Sunday, January 10, 2010

ひとりオーケストラ/That 1 Guy

そしてその日のメインアクトThat 1 Guyさんは、声と足下のループペダル類、手作りの楽器、そしてその他色々な楽器で演奏します。目指すは自身曰く”one man orchestra"’(ひとりオーケストラ)。ルーツはコントラバス/ウッドベースにあり、学校で学んだあとミュージシャンとして活動後、The magic pipeと呼ばれるこの楽器を作ったそうです。

このビデオはインタビューなども含むのですが、46秒目くらいから、演奏風景が見られます。(最初の16秒くらいはCMです。)


パイプを組み合わせて、そこに弦をはり、またセンサーやボタンが仕込まれていて、それぞれ反応するとサンプリング音源が再生されたりという、作った本人にしか演奏できそうにない楽器です。それを、手で弾いたり、ドラムスティックで叩いたり、ノコギリでこすったりして演奏します。他にも、ブーツを改造した楽器(the magic boot)などもあり、手品など小道具を使ったり、レーザー光線とミラーボールも同時に操作したり、いろいろ仕掛けがあります。

全く知らないアーティストだっただけに、1曲ごとに「なんじゃこれは?!」と驚かされ、拍手して大笑いしてました。こんなに変てこなのに、奇をてらっている感じや小難しいモダンアートっぽさは無く(ユーモアはある)本人至って真剣、そして楽しそう。ジャズベーシストとして活動後、普通のベースで出せる音に限界を感じて楽器を作ってしまったわけで、根底には音楽がしっかり流れています。彼が常に笑顔でオーディエンスの反応をいたずらっぽく見ているのも盛り上がります。これは、実際にライブで目撃しないと楽しさが伝わらない。

ですが、いくつかyoutubeで見つけたビデオを並べておきます。その1:30分間のスタジオライブ。その2:トランプで演奏(ビデオに含まれていないけどイントロで手品。)その3:PVも作っていたりする( "Mustaches" という曲。この曲をライブで演奏するときは、付けヒゲを付ける。)

そしてThat 1 Guyがライブ中と後に何度も口にしていたのが、"Thank you for supporting live music"。ライブ音楽を支援してくれてありがとう。「僕の音楽を」でも「音楽を」でもなく、「ライブ音楽を」です。

CDやレコードやMP3で流通する「録音音楽」と、生でパフォーマンスされる「ライブ音楽」、この二つは、密接に結びついた別の文化という気がします。同じ音楽というカテゴリーでありながら、必要なスキルも志向も、楽しみ方も大きく違う。録音音楽はパッケージ化した商品として広く流通しやすいので、私も子供の頃から聴いて楽しんできました。でもライブ音楽の本当の楽しさを知ったのはここ数年のことです。

みなさんは、ライブ音楽がお好きですか? 

踊れるヒューマンビートボックス/Heatbox

先日(といっても2ヶ月前)、全く内容を知らずにぶらりと行ったライブで、前座として出てきたのがこのHeatboxというお兄さん。地元ミネソタをベースに活動しているようです。いわゆるヒューマンビートボックス、だけどよくある一発芸の枠を超えてちゃんと音楽になってます。こんな感じ。(低音が聴こえにくいビデオですが。)



ビートボックス+歌、それに加えて足でエフェクターやループペダルを踏んで、音を重ねたりmixしたりしているようです。ビデオだとイマイチ伝わらないかもしれませんが、ライブで目の前で見るとなかなか驚きました。見たことの無いスタイルだったので、感心することしきり。笑えるし。最初は、なんだビートボックスか、と冷めた目で見てたんだけど、気づいたら踊ってました。他の客も踊っているし、1曲終わるごとに歓声がどんどん大きくなる。

どこかのフェスでお客さんノリノリの様子のビデオがありました。

みなさん、気持ちよさそーw

このHeatboxさん、他のミュージシャンと共演することも多いみたいです。私が見たときも、メインアクトであるThat 1 Guyというアーティストとセッションしてました。こんな感じ。(このビデオは別の日のですが。)


heatbox側の音があんまり聴こえないですが、、、。

どちらも全く知らないアーティストで、しかも日曜の夜、住宅街のカフェみたいな店で、チャージ13ドルで何の期待もなく見たライブが思いがけず楽しかった、というのは日本ではあんまり経験が無いですが、アメリカでは割と無名な人が面白いことをしてるのに遭遇することが多いような気がします。


このThat 1 Guyさんはさらに独特のスタイルで面白いので、この後で紹介します。

Wednesday, January 6, 2010

Have a good one.

新年、「今年は英語を勉強するぞ」意気込んでいる人もいるだろうし、アメリカにいるんだしたまには軽い英語ネタでも書いて皆さんのご機嫌を取りたい今年のソラネでございます。

コンビニでのよくある買い物風景。

お店で商品をレジに持っていくと、まず店員は
"Hi, How are you today?"
という感じで挨拶をしてくれます。日本だと店員から「お元気ですか?」なんて聞かれないのでちょっと驚くけど、よくある買い物会話のパターンなので自然に手短に、
"Good, yourself?"(いいですよ。あなたは?)
てな感じで返し、会話を続けます。これにまた店員は、
"Good, thank you"
なんて返してきます。この辺はもう自動で流しちゃいます。たいていは単に無言で気まずい空気を避けるためだけなので。生理痛がひどくて痛み止めを買いにいった場合で体が「く」の字でも、はにかんで"Good"でオーケーです。でも気が向いたら、
"Good, but it's so cold outside."(元気です。でも外がすごく寒いね。)とか言ってもいいです。"so"のところできもーち目を見開いて、参ったねって感じで首をちょっ と小さく横に2、3回振りながら言うと、アメリカ人っぽくていいかもしれません。Oh my godって感じで。男性の場合は首の振り方が斜めでキレがありすぎるとゲイっぽいので、大きめのゆるやかな動きが良いでしょう。目の見開き方は控えめに。
いや、オカマっぽくても別に構わないんですけど。あ、話が脱線しました。
で、店員はレジを打ちながら(スキャンしながら)
"Found everything Okay?"(探してたもの見つかった?)
と聞いてきますので、
"Yes"
と返します。もしくは、
"Actually, can I have a pack of those red American Spirit?"(ええと、赤のアメリカンスピリットも1箱頂けます?)
とか、レジの向こう側にあるものをお願いしたりもします。
で、打ち終わると、親切な場合、もしくはあなたがボーっとしてる場合は、
"Nine seventy nine"(9ドル79セントです)
なんて言ってくれます。まず、数字しか言いません。
で、カードを渡すか現金を渡して、会計をすませます。そして最後に店員は、
"Thanks. Have a good one"
と言ってくれることが多い。

"Have a good one"って何でしょう? 調べたことはないですが、have a good oneというのはイギリスやシンガポールなんかでは使わない、カジュアルな米語なんじゃないかって気がします。"Have a good day"とか、"Have a good weekend"は学校でも習いましたが、dayだと朝しか使えないし、そもそも仕事帰りの人はこれから寝るかもしれないし、weekendって言っても 週末仕事してる人かもしれないし、ムスリムだったら木金が休みだし、、、という悩みを、oneで解決しちゃったんでしょう。全ての可能性のうち、どれかひとつであることは間違いない。とにかく、goodなのを過ごしてね、っていうことで、Have a good one。大雑把だよね。

で、その返事として妥当なのは、
"Thanks, you too."
もしくはただ、
"You too."

です。お店やレストランで良く聞きますけど、かなりカジュアルな印象です。


それではみなさん、英語の勉強がんばって下さい。私は高校生くらいから後は英語を「勉強」したことないですけど。ただいつも、英語を使ってきました。よちよち歩きにイライラしながら、読んだり書いたり聞いたり歌ったりしてきました。最近やっと早歩きが出来るようになったかな、という感じ。昔から、夢みているのはオリンピック級の中距離走という感じで、でも出来るのは目の前の一歩一歩です。ブラウザでも常に、何はなくとも辞書サイトのタブが開いてます。

←唐突ですが、先日12/14に参加した10キロランニングレースで勝手に撮られていた写真をどうぞ。どうやら、お金払うとちゃんと紙焼きでもらえるみたい。(要らん。)




という感じで、Have a good one!

Saturday, January 2, 2010

12/21 Garage a Trois ライブ音源

私が先日、雪の中を片道1時間半もかけて運転していったショーの音源が公開されています。
12/21/2009 Garage a trois @8 x 10, Baltimore, MD
http://www.archive.org/details/gat2009-12-21.sbd_16bit
サウンドボード音源です。(つまり客側からマイク1本で拾った音ではなく、ステージ上のマイクで楽器別に拾った音をPAが調整したものなので、平たく言って音が格段に良い!)会場にテーパーがおらず、音源を期待してなかったので嬉しい。


すみません、ショボい写真しか無くて。(良いライブは音に没頭してるので写真は撮れないし、つまらないライブは写真を撮る気にもならないの法則。)セカンドセットの最初、Saxophone sessionの写真です。Skerikは、サックスはいつも自分1人のことが多いから、今日は仲間と演奏できて嬉しい!って言ってました。

わたくしこのショーの直後からクリスマス休暇〜風邪〜年末年始で忙しくしてたもので書き損ねていましたが、こりゃー楽しいショーでしたよ。踊りまくってヘロヘロでした。(でも楽勝で雪や渋滞を抜け1時間半かけて運転して帰れるところが、アメリカの大地で鍛えられた私、って感じw)

先日私が訳したインタビューの言葉そのまま、めちゃくちゃロックしてたし、メンバーみんなちょー楽しそうでした。まるで走り回る悪ガキを面白半分に止めようと手を伸ばしたらいつのまにか追いかけっこに巻き込まれ、自分まで全力でゲラゲラ笑いながら走ってた、みたいな、気持ち良いくすぐったさが全身を駆け抜けるショーでした。キーボードのBeneventoはニコニコ可愛い顔で何してるのかと思ったらぐちゃぐちゃの落とし穴とか作ってて危ないし、サックスでリーダーのSkerikはいたずらっこそのまますばしっこくて気づいたら背後から大声で驚かして来たりするので、ギャーっとMike Dの逞しい二の腕に文字通りしがみつきたくなる。Stantonは3人の背後でこれまた複雑でけったいなリズム作ってるなと目をやるとドラムスティックが空中に浮いてて目を疑う(放り投げながら叩いている!)。


と思ったらSkerikは後ろを向いて、Mike Dのビブラフォン(鉄琴?)を叩き始める。思わずビデオを撮った。

目の前で起こっていることを形容するなら、躍動感、生命力、色えんぴつを1本選ぶなら緑。ステージ近くの客が音を浴び、激しいビートが戻ってくる度に雷に打たれたように動き出しては飛び跳ねるのを見て、このバンドが「ジャズ」とたびたび形容されることを思い出して笑ってしまう。ステージ前はメタルノリ。そういえば演奏前にskerikが"Do you guys like psychedelic jam bands?"って言ってて笑わせてくれた。 古い木の床が文字通り揺れていて、思わず新宿リキッドルームを思い出す。(あの頃は、フロアが揺れるなんてよくあることだと思っていたのに!) スタントンの変拍子キックに飛ばされ一瞬にして1999年の歌舞伎町にワープした直後にサックスの高音に首根っこ掴まれて2009年のボルチモアに引きずり戻される。タテノリ側の客の合間には、矢継ぎ早の展開に巻かれて口を開けポカンと立ち揺れる幸せな海藻系のひとびと。気持ち良さってのは、今、起こっていることしか有り得ないんだ、フォー!! 




The ongoing WOW is happening RIGHT NOW. 「マイルス・デイヴィスが若かった頃のライブを見てみたかった」とか「ジェームス・ブラウンの最盛期のダンスを目撃したかったな」とか「81年にアメリカでTalking Headsを見たかった」とか。それは、過去に誰かに起こった、あなたの頭の中から出られない仮想のショー。本当の出来事は、今、まさに今ここで起こっていること。伝説は、今ここでしか起こらない。

空気の震えは、部分的にしかコピーできない。記録されて後に残されるのは記録だ。出来事じゃない。ご馳走の写真を見るだけで満足していて良いのは、本物の囚人だけでしょう。金属が木が揺らした空気は、耳だけで感じるんじゃない。腕も髪の先もお腹の中も、音に触れられる。なでられる。なぶられる。吹かれる。演奏者のもとを旅立った音色が、あなたの全身を通り抜けてもなお、旅は続く。サックスや鉄琴はさすがの金属らしい迫力で、ぐわんぐわんと大きな波で空気を揺らす。こんなの録音じゃ伝わらないって。*

*(録音音源で「あたり」を付けることは出来るが。競馬新聞みたいなもんだな。)

フロアを巨大なクモの巣のように覆い始める鉄琴に、するどく切り込むサックス。空気を音で埋め尽くす快感。彼らはまだ若い。長年連れ添ったグループが、お互いの呼吸を知り尽くして最小限の音で静寂さえも柔らかく包み込むような演奏とは違う。とにかく思いついたこと全部やってみようと全員で決めたかのようなエネルギーに満ちている。彼らがやっていることが伝説になるかは、行った人ひとりひとりが、それぞれ決めること。もっと大事なのは、行けば踊れるということ。踊れば気持ち良いということ。気持ち良いことは、良いこと。今だけが、完全で、永遠なのだから。


ちなみに会場はこんな小さなバーでした。Love Baltimore.

2009年に見た映画を振り返る

年々映画を見る本数が減り、去年は劇場・DVD合わせてなんと21本しか見ていません(うち劇場が18本)。ここ数年mixi日記で毎年、年間10本を面白かった順に選び出してたんですが、今回は順不同で面白かったものを並べておきましょう。

・ウォッチメン(バルト9)
・ミルク(シネマライズ)
・Elf(飛行機)

なんだこれw 映画をトピックにしたブログポストを書く人のリストには見えないね。Elfってw 飛行機ってw グラントリノより面白いのかよw (グラントリノは日本で見たのでこの限りではありませんが、今年後半はアメリカに引っ越したので、台詞が聞き取れないために映画自体を敬遠しがちだったのは否めません。イングロリアス・バスターズなんか筋が追えなかった。)グラントリノは間違いなく名作ですが、「好き」とは思えないので選外。

ちなみに見た作品全部(記録忘れなかった分)はこちら。不完全なタイトルばかり並んでてスミマセン。

マゴリアムおじさんの(正式名失念)
ナクバ
薔薇の葬列
ベンジャミン・バトン
チェンジリング
(日仏学院で見たファスビンダーの作品)
ウォッチメン
スラムドッグ・ミリオネア
(リングの監督がハリウッドで映画を撮るドキュメンタリー。名前失念)
バーン・アフター・リーディング
Milk
グラントリノ
ターミネーター4
Bruno
イングロリアス・バスターズ
District 9
Zombieland
The men who stare at goats
Elf
シャーロック・ホームズ
The hangover


ついでに、過去5年分のランキングを載せておきます。


2008年、この辺はまだよく覚えている。良い作品に恵まれていたな。どれもマスターピース感が漂う。
2008(60本←これは劇場・DVDなど合わせて見た総数)
1:百万円と苦虫女
2:デスプルーフ
3:ダークナイト
4:崖の上のポニョ
5:Tropic Thunder
6:パフューム
7:There will be blood
8:羅生門
9:つぐない
10:Be kind rewind

2007年、今眺めると、「他に無かったの?」と思う作品が多い。3は泣いたなぁ。7のダニー・ボイル監督、スラムドッグ・ミリオネアはイマイチだった。8,9あたりを選ぶあたり、体力の低下がじゃっかん心配ですね。
2007(47)
1.パプリカ(新宿テアトルタイムズスクエア)
2.Borat: Cultural Learnings of America for Make Benefit Glorious Nation of Kazakhstan ボラット(PCで)
3.ママが遺したラブソング(目黒シネマ)
4.セレブの種(DVD)
5.TV Junkie(フロリダのさえないホテルで)
6.不都合な真実(六本木Toho Cinemas)
7.サンシャイン2057(DVD)
8.Charlotte's web (シャーロットの贈り物)(飛行機内)
9.No reservation (幸せのレシピ)(飛行機内)
10.Live free or die hard (ダイハード4.0)(DC近郊の映画館)

2006年、1はびしょびしょに泣いたね。もう見たくないくらい。4はDVDも買って何度か見た。ザック・ブラフは心の友。5をもう一度見たいな。そのうちゆっくりと、フランソワ・オゾン監督の作品はDVDを買い集めたい。(キャメロン・クロウ、リチャード・リンクレーター、タルコフスキーなども集めたい。←この辺、好きな映画監督です。)
2006(73)
1:ナイロビの蜂(6月)
2:タッチ・ザ・サウンド(5月)
3:ヒストリー・オブ・バイオレンス(3月)
4:始まりで終わりの5日間(Garden State)(3月)
5:僕を葬る(5月)
6:ノスタルジア(11月)
7:狩人と犬、最後の旅(The last trapper)(11月)
8:ミリオンダラー・ベイビー(1月)
9:ブロークバック・マウンテン(4月)
10:MrアンドMrsスミス(5月)

2005年、10は本当に気に入ったのかなぁ? たぶん六本木ヒルズのスクリーン7が気に入ったんだと思う。1、2、3は複数回見たガチ名作。5の人は活躍してるんだろうか。
2005(約100)
1:ビフォア・サンセット
2:Mind Game
3:City of God
4:ハッカビーズ
5:ターネーション
6:Mondovino
7:igby goes down(17歳の処方箋)
8:Eternal sunshine of the spotless mind
9:Sin City
10:Star Wars エピソード3

2004年、この年はまだ見た映画を記録する習慣がなかった。4のGerryとか映画館で超寝てるんだけど、選ばれている。気持ちよく寝たんだろうな。映画館で寝て、半分映画で半分夢を見てるのは結構いいもんです。(タルコフスキーのノスタルジアなんかも、映画観で寝るのが最高に気持ち良い作品。)
2004(記録なし)
1:エレファント
2:ロスト・イン・トランスレーション
3:スクール・オブ・ロック、下妻物語、刑務所の中
4:Gerry、Serendipity
5:Day after tomorrow、Spiderman 2
特別(オールタイムベスト):ファイトクラブ、waking life


このリストに出て来る映画のうち劇場で見た作品は、どこの劇場で見たかをたいていはっきり思い出せるのが面白いなと思います。

今年も少なくとも前半は、あまり映画を見ない年になる気がします。台詞が聞き取れない問題だけじゃなく、ここ1、2年は自分と映画の関係を仕切り直してる感じがあります。というわけで、言い方は悪いですが「どうでもいい」映画しか見ていません。今は、特定の作品というより「映画」でも見ようか?と旦那と近所のシネコンに出かけるパターンでしかほとんど映画を見てないので。ただ、たまには私が思う映画らしい映画を見る機会を作って行きたいなとは思っています。魂の宿った映画と言いますか。もうちょっと生活が落ち着いてからかな、と思います。

Friday, January 1, 2010

明けましておめでとうございます

どうか皆さまが、足の暖かい1年を過ごされますように。



今年は初めてお節を作りました。

初めてで勝手が分からず、手に入らない食材もあり、さらに風邪の炎症がまだ完全には引かず味覚が戻っていないためどの料理もあまりおいしいとは言えない出来ですが、作ることに意味があったかと思います。家族が、それぞれの役を見つめるための定規みたいな存在だと思います。節(ふし)の料理。生きていくのに重要なことは、死なないことです。止まらないこと、動き続けること。ひと呼吸を、一日を、ひと月を、一年を、繰り返して行くことです。1年かけてループする黒豆煮が、家族をつなぎ、また世代をループさせていきます。丁寧なキックが、グルーヴを産みます。毎年同じようで、同じ味なんて無いのです。コンピュータでループ音を作り、流し続ければ、全く同じ繰り返しであると気づいた時点で耳障りな雑音になります。退屈です。すなわち死です。ですから、一年分の成長を昇華させるつもりの丁寧さで、黒豆を煮るのです。(1年目の今回は、焦がしましたw)

マイお節は全部手作りというワケではありません。田作りも買ってきたもの。妙に砂糖が多いのかちっちゃな魚同士がべったり糸をひくほどくっついており、面白がった旦那は箸の先に一匹くっつけて、雑煮を海に見立て劇をやってくれました。子供かっ!! 旦那から見ると雑煮の餅は、ぐにゃぐにゃで気持ち悪く、さらに味もない、ということでお好きじゃないようです。他にも典型的アメリカンな味覚で育った旦那にはちょっと難しい食材(こんにゃくなど手をつけない)も多いし、いわゆる伝統的なお節尽くしだと今の私には手に負えないので、来年はもうちょっとアレンジして、新しい家族の中で活きるようなものを工夫してみたいと思います。感謝祭のターキーなども、アメリカ版お節と言えるかと思います(=「繰り返す」料理)。我が家のお節は、始まったばかり。

最後になりましたが、皆さま今年もよろしくお願いいたします。