Saturday, January 30, 2010

サリンジャーと読書の思い出

サリンジャーが亡くなった。"Catcher in the Rye"は、私が最初に英語で読んだ本だ。茨城の高校に通っていた頃のこと。分からない単語も表現も多かったけど、基本的に同い年くらいの主人公の話し言葉なこともあり意外にドライブ感を失わないまま最後まで耳を傾けることができた。それと直前に日本語訳で読んだ記憶もまだ鮮やかだったので、既にある「ライ麦畑でつかまえて」の存在感に英語のレイヤーを上からふわっと重ねて、文体と流れを楽しむことが出来たんだと思う。

この本はたしか、渋谷のタワーレコードに入っているタワーブックスで買ったはずだ。96〜97年くらい。当時、(研究書とかじゃなくて)本屋で普通に売ってる範囲内では、洋書を輸入しているのはほとんどが洋販という会社で、その次にタワーブックスが独自で輸入しているのが二番手くらいだったはず。(高校生の私が観察した結果のしかもうろ覚えなので違うかもしれないが、三省堂、丸善、紀伊国屋など大手書店の洋書はほとんど洋販の仕入れだったと記憶している。)で、全体的に洋販よりタワーのが安かった。


当時もamazonはあったけど日本ではサービス開始してなかったので、1冊買うくらいではアメリカからの送料で高くなってしまうのであった。そして高校生の私にはクレジットカードで支払いとか、カスタマーサービスも英語とか、ハードルが高かったはず。しかし、amazonの各機能には感嘆していた。当時からレビュー機能もあったし、おすすめ機能もあった。うわあ読者仲間がいるんだ、世界には!というピュアな驚き。完全なる手探り+アルファな本選びの可能性。

そんな高校生の私は大学受験に向けての勉強をする気が起こらず、ごく自然な流れで浪人生というものになった。週に2コマだけ予備校の授業を取り(英語と小論文)、そのうち1つ(英語)はすぐに行かなくなり、神保町のレストランでウェイトレスをしつつ給料日は古本をリュックにつめて帰ったものだ。そして、ほどなくしてタワーブックスのバイト募集を見つける。パートタイムじゃなくてフルタイムのアルバイト。どの大学に何しに行きたいかもさっぱり分からなかったので、とりあえずフリーターして考えたらいいじゃないと応募した。

志望動機は履歴書用紙では足りないので別紙に書いた。

タワーブックスは他の書店より安く個性もあるバランス良い品揃えで実店舗としては素晴らしいが、今後の競争相手はオンライン書店だと思う。何を買ったら良いかの判断材料として他のユーザーのレビュー機能などがある。そこで実店舗の本屋の存在意義は、流れている音楽など含めてそこに行きたくなるような楽しい空間にある。そこに行かないと読めない店員のコメントとか、品揃え、空間作りこそ今後の鍵。少なからず貢献できると思う。

そんなようなことを、A4用紙1枚にまとめて印刷した。たぶん、「御社」とかいう言葉も知らなくて「タワーブックスは」とか書いてたんじゃないかなあ。覚えてないけど。で、面接にいったらその紙をみた担当者は「すごいですね」って言った。褒めるというより戸惑ってるような? そして面接の内容も通達内容も覚えてないけど、とにかく採用されなかった。

で、そのままウェイトレスのバイト先がインドカレー屋からタイ料理屋に変わったりしつつ次の年、ほとんど勉強はせずに英語と小論文だけで大学に入って今にいたる。

あれから約14年、アメリカのタワーレコード本社は破産(再建したが実店舗はない)、洋販も破産し傘下の青山ブックセンターはブックオフ傘下に、読書には「本」すら要らなくなってしまった。先週、Barns & Nobleが販売している電子ブックリーダー"Nook"を店舗で見かけたので操作してみた。ディスプレイは見やすかった。小説に没頭していたら、紙でもこれ(Nook)でも変わらず読書は出来るなと思った。Kindleも多分同じくらいかそれ以上に読みやすいだろうし、iPadはアップルファンに向けた電子ブックリーダーだろう。個人的には、青山ブックセンターがブックオフ傘下ということのが、読書から紙が消えることよりもシュールに感じる。

モノに溢れた東京で溺れそうになりながら生活していると忘れがちだが、読みたい本が読めない人は今でも多いはずなのだ。サリンジャーはまだキンドル版が出てないみたいだけど、他の作家を見てみると著作権の切れたものは無料のも多い。有名な古典文学だとエドガー・アラン・ポー、ウォルト・ウィットマン、オスカー・ワイルドなんかも無料作品がある。99セントの作品も多い。茨城の高校に通いつつ、渋谷まで最安値の洋書を買いに行っていた高校生のことを思うと、なんと素晴らしい状況ではないか。作家もあの世で喜んでいるに違いない。サリンジャーの作品は、2060年にパブリックドメインになるのか・・・。

そういえば、アメリカで図書館に行ったことがないので、行ってみようと思う。言葉の印刷された本に囲まれる体験は近い将来、珍しくて贅沢な体験になるのだろうか? 古い紙の匂いは?

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