Sunday, January 24, 2010

読書:Michael Pollan新作「Food Rules an eater's manual」

私も東京で会社員をしてたから、食事をコンビニでまかなったことは多々ある。現実的な選択肢として、今この瞬間も日本でたくさんの人がコンビニ弁当をお腹に収めていることだろう。でもいつも私はコンビニ弁当を、緊急時用とみなしてきた。安くて簡単に買えて簡単に食べられるコンビニの食べ物は、毎日食べ続けてはいけないものと強く認識してはいた。

知らない人が私を知らずに作った、最低限食べられる味付けの、明らかに栄養が偏った食事を本当の食事と言っていいのだろうか。不審者を玄関に上げないのに、不安のぬぐえない物を体内に入れることには慣れてしまう、それは囚人の生活じゃないか。

何に囚われているのかと言えば、それは資本主義だろう。私にとってウマイ飯は、なかなか資本主義と相性が悪い。いや正しく希望を持って言おう。今までの資本主義は、本当の美味しさを犠牲にして発展してきた。

「昔のトマトはおいしかった」と食卓のトマトサラダを食べながら母が言っていたのをよく覚えている。私は母の作るシンプルなトマトサラダが好きだったから、「つまりこのトマトはあんまりおいしくないのか?」と不思議に思った。母は、昔のトマトは野性味があって力強かったという。「トマトの味がした」と言った。じゃあ、私はトマトの味を知らない。母の言い方には危機感が感じられず、それがすごく不安を煽ったものだ。「もぎたてのきゅうりも、今思えばおいしかったな。」呑気でかわいいみっちゃんよ。

それってひどくない? おいしいトマトを世界から追放した代わりに、私の世代が得たものは色々あるんだろう。でも親以上の世代が私に、おいしいトマトを残してくれなかったことは変わらない。そこは反省するとこじゃないの? 子供だから分からなかったけど今なら分かる。若き宙音よ、そのもやもやした感情は、怒りといって、人類のパワフルなエネルギー源だ。

冬のごぼうの香り、生の大根の水分が体に染み込む感じ。茹でたてのそら豆が上げる湯気、春の山菜の新芽の複雑な緑色、秋の秋刀魚の脂が焼ける音。自然の鮮やかさを教えてくれる食べ物、それが私の好きな味だ。これは3、4年前に自分で料理をし始めて、分かったことだ。

だからといって何でも手作りは、私にも無理。外食もするし、料理の手間をお金で買うこともある。釣りや狩りをし畑を耕して生活をすればそれは美味しい生活だろうが、友達付き合いもしたいし俗世間でやることがまだまだある。



そんな私は、アメリカで昨年末に出版されたマイケル・ポーランの新作「Food Rules An Eater's Manual」を支持する。この本の概要はこうだ;

現代人は、溢れる製品と情報の中で、何を食べたら良いのか混乱状態にある。しかし栄養学というのは歴史が浅く、まだまだ発展途上。そして栄養学とフード・サイエンスに基づいて食品産業が作り上げたアメリカの食生活(ウェスタン・ダイエット:複雑に加工された食品と肉の消費が多い)では、肥満、心臓病、糖尿病や癌などいわゆる現代病が増えるということは科学者も認めてる。その一方で伝統的な食生活を送る人々にはそれらの現代病は少ない。この栄養素がこの病気を作る、と一つの「原因物質」を突き止めようとするその食生活そのものが問題なのだ。調査の後著者が導いた結論は短く;「Eat food. Not too much. Mostly plants.(食べ物を食べよ。食べ過ぎず。主に植物を。)」さらに、民俗学者、人類学者、医者、看護婦、栄養学者、栄養士、そしてたくさんの母親と祖母、曾祖母に話を聞き、そしてインターネット上で、親や他人から聞いた食べ物に関するルールで役に立ったものを一般から集めた。それを精査し、アメリカの現状において何をどう食べたらいいかということに関する64のルールを3つのセクション「Eat food」「Not too much」「Mostly plants」にそれぞれ分けまとめたのが本書。

例えば「Eat food」セクションのルール7は「小学校三年生が発音できない(読めない)原材料が含まれる食品は避けるべし。」それは「食べ物」とはみなさず、食べ物っぽい食用物質(edible foodlike substances)と呼ぶ。こんな感じで、簡単な説明とともに展開する。薄い本なのでネイティブなら1時間程度で読めるはずだ。そして安い。(定価は11ドルだが私はamazonで5ドルで買った。)

←イラストも多い。

全体的に賛成できる内容だが中にはもちろん、全面的に賛成できないルールもあるし、根拠に乏しいと感じるルールもある。でも、膝を打って「そうそう!」と思う文も多く、なにしろこういう本がアメリカで出版されるというのは喜ばしい。食との付き合いに違和感と不満を感じつつ、改善方法が分からない人たちはたくさんいるはずで、その人たちにとっては良いきっかけになるだろう。買ってさらっと読んで、友達にさりげなくあげてもいい。

日本とアメリカは事情が違うので全く同じようにあてはめることは出来ないが、グローバルな現代社会では他人事なんて存在しないだろう。私が日本で3、4年前に自分の食生活を見直し始めたとき、参考に出来る指南書の類いは多くなかったことを考えると、冷静に落としどころを定めて書かれたこういう本がアメリカでドロップされたことには拍手を送りたい。そして、アメリカの不健康な食事情は日本以上に改善の余地があることは明らかだが、変わり始めたら大胆な動きも可能なのがアメリカだ。今後に注目。

ちなみにそんな私の食生活は、その全てを簡潔に記録するブログを最近始めたので、気になる人はどうぞ覗いて下さい。味気も色気もないですが。
http://sorafay.wordpress.com/


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