Tuesday, March 16, 2010

アルモドバル監督新作"Broken Embraces"を見た 

邦題は「抱擁のかけら」。寒い寒いニューヨークで見た。久々に見るペドロ・アルモドバル監督の作品。以下は、映画のレビューではない。いかに私が映画レビューを書けないか、という内容になると思う。



かつて私はたくさん映画を見ていた。映画祭のスタッフだったこともあるし、配給に関するワークショップ(ニューシネマワークショップ)にも通った。アルモドバルといえば、映画祭で見た「バチ当たり修道院の最期」を思い出す。映画が好きだったが、数年前からめっきり見る本数が減った。

たぶん、人が作ったドラマよりずっとドラマチックなことが私の人生で起こっていたのも、映画を見なくなった理由だと思う。6年前に父が歩行中のひき逃げで亡くなった。母は癌の治療で入院中だった。弟は大学生だった。それから、私たちはみんな、控えめに言っても頭がおかしくなった。お金の問題も山ほどあった。父の死亡で振り込まれた自賠責の保険金は、ほとんどが母の株運用で失われた。腐るほどの醜い言い争いがあり、不眠があり、下痢があり、胃けいれんがあり、抗うつ剤があり、心理カウンセラーへの出費があった。それから4年後、母が亡くなった。徹底的にとっ散らかった数年であった。引きつったままでも笑うしかない。アルモドバル映画かよっ!みたいな日々。

父がある日突然この世から消えたのは笑えないコメディだった。心はたぶん凍るしかないはずだ。母が亡くなる前には、悲しみが常識も法律も思いやりも物理の法則も凌駕するねじ曲がった空間でもみくちゃにされた。まだ体中の骨が折れたままだと思う。ちょっと動くと痛いのだ。映画の中に、例えば緊急入院病棟の場面が出てくるとする。すると母が入院していた病棟の空気や、父の運ばれた集中治療室の明かりが画面に流れ込む。私は映画から飛び出してただ椅子に貼り付けられてしまう。凍り付く。呼吸が乱れる。全身が痛い。改めて思い知る。

映画中で起こっていることより、自分に最近起こったドラマにどう感想を持っていいかすら分からないのだ。怒りながら笑い泣きをしているのだ。ここ何年も。たいていの映画より面白い。投げかける問いは巨大だし、忘れられない名作だ。長編大作。だから映画を見たとしても、レビューは書けない。このドラマの前では、そこらの映画はかすんでしまい存在感は消える。

いつまで私は本当の映画を見られないのだろう? 時間は解決してくれないのかもしれない。私がせっかちなだけかもしれない。「何を見ても何かを思い出す」と書いたのはヘミングウェイだったか。

楽しい記憶を積み上げるしかないのか? 人の死より大きな思い出を作るしかないのか? そしたら自分の過去に邪魔されず映画を見られるのか?

。。。ここまで認識できるようになったなら、もうちょっと積極的な対応ができる気もする。良い記憶は、外の世界の面倒にも耐えてやっと作れるといったものだ。大変。アルモドバルは悲しみについても良く知っている。彼はこってりと悲しみを描く。登場人物を痛めつける。でも悲しみだけなら誰も見ないはずだ。彼は救いを描いてると思う。なぜなら単純に、自分が救いを信じたいから。そんな気がする。そこにちゃんと用意してくれてると思う。そろそろ、手を伸ばして相手の手を探してもいいかなと思う。

このBroken Embracesという映画は、端的には愛する人を失った男が主人公だ。それも唐突に、まったく脈絡なく愛する人が死ぬ。"Embrace"は抱擁、セックスなどを始めとした「受け入れ合う/取り囲む」状態を表す。"Broken Embraces"。壊れては再生する、人の関係、生命の不断の動き。どうがんばっても大きな流れにさらわれてしまう人間たち。諦める、受け入れるしかないこと。

そういう時期に来てるかなと思う。画面の向こう側に、作り手の優しさを探す。優しさが見つからなかったら、そこで描かれている何にも悲しくなる必要はないのだ。なぜならそれは私には何も語りかけてないから。そのレスポンスとして、自分も相手に手を伸ばせばいい。そしたら全く別の方向から、きっとその手を見つけてくれる人がいるはずだ。見えないけど強いその絆を、感じて守っていけばいいんだと思う。たぶん、そんな感じ。

2 comments:

Unknown said...

まだ観れてないんだよねー。

mmが終わってから。

アルモドバルの映画は、すんげーーー暗いんだけど、抜けてる。

ってのが、印象。

てか、有里子の話を聴くと、アルモドバルの映画な感じは、スペインにはあふれているんだってw

強いよ

日本だと、演歌になるんだよなー。

山平宙音 said...

私はたぶん若い頃に、その暗さの奥にあるものがつかみ取れなくて、不可解すぎると見るのやめちゃったんだと思う。スペイン遠過ぎる、と思った。その頃から日本語と英語以外の映画もほとんど見なくなったんだけどね。

スペインも行ってみたいなー。