Sunday, October 25, 2009

ランニングで考える一神教の始まり

先日の10キロランレースのオマケ。走りながら神について考えた。

何かの本で読んだのだけど、一神教が生まれるには、天候や地形などによって過酷な生活を強いられる場所が背景として重要だったという説があるようだ。日本やインドやら、天気が割と良くて、食べ物の心配をそうしなくても生きていける場所では、人は周囲や自然と協調することが重要だったので、神的存在が複数存在する世界観が発達した。一方砂漠のような気を抜くと人間がすぐ死んじゃうような場所では、つべこべ言わずに人々が団結する必要があったので、唯一神が借り出された。

なるほど、うなずける気がする話だ。頭ではなるほどね、と思う。でも実感できるものではない。1人(?)の神様って存在が、全てを作って、全てをコントロールしている、という話を本気で信じられる人がいるなんて、にわかに信じがたいのだ。仏教、神道、キリスト教、なんでもごちゃ混ぜの日本教育ちの私から見ると一神教を受け入れられる世界観というのは、想像を超えた謎。

外国の文学や映画、歌など創作物も好きだけど、共感できるのは一神教信者とは言えない人/物ばかり。一神教と私の間の深い溝は、ブラックホールのような超えられない存在なのか。良いなと思う瞬間はたくさんあるのに、Sun Raや矢野顕子を聴いていてイマイチ全身で乗り切れない限界点みたいなものがあるのも、その溝のせいじゃないかな、って思ってた。(ライブ見てないから何とも言えないが。)

今でもその謎は簡単に想像できるものではないが、先日参加した10キロランニングレースで、ちょっとした手応えのようなものを感じる瞬間があったので書いておく。走ってると変なことを思いつくから面白いのだ。

レース中、6キロを過ぎたあたりで市街地を抜けてしまった。このレース後半部分アーリントン墓地横の片道2車線のハイウェイに入り、2、3キロごとに給水ポイントがあり1キロごとに応援する人が沿道にいるという、寂しい風景。7キロくらいのところで折り返しがあり、市街地に向かってまた退屈な道を戻り始める。その頃、走り続けることが出来なくて歩き始めた。1、2分歩き、また走るの繰り返し。ハイウエイだから沿道に人などほとんどいない。体の重さと呼吸の苦しさしか感じない。その頃だ。コースの脇に、拡声器を持って選手達にメッセージを送り続ける人がいた。

その女性は、選手が胸につけている「ゼッケン」の番号をひとりひとり読み上げ、「2015番、その調子、いいよ!」といった具合で応援しているのだ。ビリに近い組だから、通り過ぎる選手もまばらだが、彼女はずっと元気良く話し続けている。近づくと何を言っているか聞こえる。「1632番、良いペースだよ! その調子で! ゴールまであと1マイル切ってるからね! ゴール地点には、冷たいビールが用意してるよ! なんと、土曜の午前中から堂々とビールだよ! 最高だと思わない? さーひとがんばり!」といった具合。

この「冷たいビール」が、なんと魅力的に聞こえたことか。こんなに何かをありがたいと思ったことはない。彼女が神々しく見えた。そう、まさに神々しかった。体の疲れと渇きに、ビールという言葉が喚起したポジティブなエネルギーは、それ自体が喜びでさえあった。希望こそが生きる喜びだって、そういえばはっぴいえんども言ってたね。「でも幸せなんて、何を持ってるかじゃない、何を欲しがるか〜だぜ〜」って(「はっぴいえんど」って曲)。人間だもの。

それで、元気が出た私は、そうかこうやって、飢えた時に飢えを満たすものをもった人が何か言ったら、すがるように信じるなと思い至った。それが生きる唯一の希望に見えるだろうから。キリストとかムハンマドとか、預言者ってのはそういうことだったのかな、と。つまりね、ちょっと賢い人が、食べ物とか飲み物とか生活必需品へのアクセスをより多く得るとする。それでただそれを人に分けてあげてもいいんだけど、そこで恵まれない人たちを味方に付けようと思ったのかもしれない。そこで、食べ物をあげる前に、食べ物の話をした。想像させた。あと、どうしたらうまく食べ物が得られるかって話をした。神ってやつが言ってることを聞くしかない、何でも知ってるから、と。そうやって大勢で協力すれば、賢さを悪いことに使う人や厳しい自然から自分も守れるしね。やっぱり話が抜群にうまかったんだろうな。

こうやって一神教は始まったんじゃないか。飢えに対する希望が、圧倒的に歓迎されて組織が出来ていくという絵。組織は大きくなると面倒がたくさん起きちゃうけど、最初にわき起こる熱ってのは、ピュアな興奮だ。おめでたい気分の残るまま、頭の中のビールのとろけるような美味しさを楽しみながら、私のレースはゴールを迎えたのでした。おわり。



余談ですが書いておく。はっぴいえんどの曲名を調べたついでに、amazonを見たが、まだ発売中止のままのようだね。鈴木茂氏が大麻所持で捕まったあとにレコード会社が発売中止したみたいだけど、それではっぴいえんどの新品CDが買えない状態。スーパーアホらしい。なんという失礼な話だ。音楽業界がアホで沈んで行くのは良いが、それで音楽作品を道づれにするのは、また別の話で、罪ですよ。

No comments: